読書紀行 2冊目 【感謝知らずの男】

【感謝知らずの男】小学館文庫
 
萩尾望都/作
 
生きる力……
エネルギー……
ぼくたちの文明が地球を裸にしているので
弱りつつある地球がきっと
人に生命に与えるエネルギーを失いつつあるんだ
有史以来
人間は地球から奪うだけ奪い続けているんだ
 (作品より抜粋)


日々の生活の一瞬一瞬にのせる感情とは別に
ふとしたときに感じる言い表せない虚無感
生きることに対する疑問、不安
 
そういったもやもやの塊を、
違和感なく美しい少年少女に投影する萩尾望都の作品は
少女漫画の枠には留められない凄みがある
 
【ポーの一族】のような妖艶さや
【トーマの心臓】の背徳感とテーマの難解さ
【スターレッド】のような幻想的なSF感はないけれど、
この本もまた、私に欲しい言葉をくれる一冊。
才能あるバレエダンサーのレヴィ。
17歳で親は金持ち。
衣食住も将来性も足りてるのに
頭の奥はいつも冷え冷えして安心して眠れることがない。
レヴィはどうなりたいのか。どうしたいのか。
 
あとがきを担当した作家・篠田節子の言葉が言い得て妙だ。

(萩尾望都は)どこかの時代の、どこかの国の、
ありえない風景の中で、ありえない少年群像を用い、
少女たちの心情や深刻な問いに応えていった

いつも思う。
表面を撫でるだけのような
心地良い会話は普段幾らでも造れるのに
 
胸の奥にある思いを
的確に、具体的にあらわしてくれる言葉を探せば探すほど
それらしい言葉を選択しようとした瞬間
嘘っぽく上辺っぽく響く気がして
一歩を踏み出せない
 
今ある気持ちに適切な言葉を選択して、
その言葉が抱えている思いと同じ熱量で
相手に伝わる日は来るのだろうか
 
きっと不可能なのだろうけど、
少しでも近づけることを夢見て
心と言の葉を育てたい
 

A Moment along with An eternity

1度の出会い、1冊の本、1本の口紅、 1杯の紅茶を丁寧に愛したい

0コメント

  • 1000 / 1000